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職場復帰に際しての会社の責任は問わない旨の念書は会社の責任を軽減させるか
労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定め、判例で確立した安全配慮義務を明文化し、同義務を使用者に負わせています。
同条が定める「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではありませんが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められると解されており、その前提として、安衛法をはじめとする所定の措置は当然に遵守しなければならないとされています。以上のとおり、使用者は、労働契約に伴い、労働契約上の付随義務として安全配慮義務を負っています。
休職に入った理由が業務に起因するものではなく、純粋な私傷病であったとしても、私傷病休職から現場復帰した後については、使用者に安全配慮義務が課せられることは言うまでもありません。そして、復職後の労務提供において、使用者が安全配慮義務に違反した結果、復職者の症状が悪化した場合には、使用者は損害賠償責任を負うことがあります。
もっとも使用者は、医学的な専門知識等を有しているわけではないので、休職に至った病気やけがの特徴および特殊性を理解することは難しいものと思われます。
そこで、具体的な配慮内容を検討するに当たっては、産業医の意見を聴取するとともに、具体的に指示をしてもらうような対応をとる必要が生じてきます。また、産業医が復職者が罹患した病気の専門家でない場合には、その分野の専門医師や主治医からも回復状況および復職後の具体的な配慮内容につき、意見を聴取するなどの対応をする必要が生じるものと思われます。要するに、復職後の安全配慮義務の履行については、一般的な配慮に加え、産業医を含む医師の判断に基づいた使用者の具体的な対応が求められます。
判例では、労働者から復職の際に、「症状が改善したので軽作業等の勤務は可能」との診断書が提出されるとともに、本人から「結果的には診断書の通りですが、業務遂行について何ら支障もないと思われ万一の場合も私自身で責任を負いますのでよろしくご配慮ください。」と記載された職場復帰願が提出されていました。しかし、裁判所は、上記書面の提出が当該労働者からあったことについては認定しているものの、職場復帰願の提出をもって使用者の安全配慮義務の免除ないし軽減などを論ずることはせず、「被告の安全配慮義務の具体的内容は、その職種、地位、現に遂行する具体的な職務の内容、その具体的な状況等によって定まる」と判示し、具体的な事実関係を認定した上で、使用者の安全配慮義務を認定しています。
念書を取得することは可能ですが、その念書の提出のみをもって、使用者の安全配慮義務が免責ないし軽減されることはないと考えておくべきです。やはり、前述のとおり、復職後の安全配慮義務を使用者として履行するためには、具体的な配慮内容を検討するに当たり、産業医等の意見を聴取しつつ、医師とともに具体的な配慮内容等を決めて対応すべきです。(岡本)
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