働き方改革関連法
平成30年6月に成立した、8つの労働法からなる『働き方改革関連法』は、長時間労働の削減対策として時間外労働の上限規制等をはじめとする労働時間制度の見直し、及び、非正規労働者の待遇格差の解消を目的とする「同一労働同一賃金の実現」に向けた均等・均衡待遇ルールの明確化が大きな柱です。
改正事項によって施行時期は異なりますが、最も早いものは、平成31年4月1日から施行されています。
8つの労働法からなる『働き方改革関連法』
- 労働基準法
- 労働時間等設定改善法
- 雇用対策法
- 労働安全衛生法
- パートタイム労働法
- 労働契約法
- 労働者派遣法
- じん肺法
働き方改革について
急速に進展する少子高齢化やこれに伴う労働力の減少は、わが国の経済にも深刻な影響を及ぼします。これに真正面から取り組み、経済を強くしていくキーポントになるのが「働き方改革」です。
女性や高齢者等の活躍を促進し、これらの人々が働く際の制約要因をなくし、働きやすい環境を整備することが不可欠です。働き方改革の取り組みは、生産性の向上を図ると共に、多様で柔軟な働き方を可能にすることを目指すものです。
働き方改革支援サービスの目的
働き方改革を行うということは「労働者の働きやすさを追求する」ことを目的としています。
働く人、一人ひとりの意思や能力・事情などを考慮し、柔軟性の高い働き方を提供することで、その人のライフステージに合った選択が可能となります。
働きやすい環境を整えることで、次のようなメリットが見えてきます。
- 労働者の増加に伴う税収増により、国が豊かに
- 労働力の確保と生産性の向上により、企業が豊かに
このように、働き方改革によって、働く意欲がある人が無理なく働ける環境は、社会全体にとって有益となることが期待できます。
ワークライフバランスを
見直すメリット
「ワークライフバランス」とは、仕事(ワーク)と生活(ライフ)の調和(バランス)を維持できる環境づくりを目的とした施策です。
従業員が、やりがいや充実感を覚えながら仕事の責任を果たすことで、家庭や地域生活においても充実した毎日が送れるようになります。
多様な人材がさまざまな場所で活躍できるような環境づくりを目指していきましょう。それこそが「健康経営」につながるのです。
「健康経営」とは
従業員の健康を大切な経営資源と捉え、その健康を維持・増進するために積極的に取り組む経営スタイルのことです。
まずは、従業員の健康増進や労働衛生などに伴う経費を「コスト」ではなく「投資」と考えます。従業員の健康は、労働に対する活力となり、結果的に生産性の向上につながります。そうすれば、おのずと会社の業績や企業価値の向上が期待できるのです。
ワークライフバランスで
期待される効果~【企業側】
-
1
生産性の向上による
時間外労働時間の削減ワークライフバランスにより、これまで時間に依存してきた働き方から解放され、業務配分や仕事の進め方を見直すことができます。そうすることで、仕事の効率アップを図り、時間外労働の削減につながります。
-
2
優秀な人材の確保と定着
ワークライフバランスを導入している企業は、従業員側からの支持も高く、優秀な人材の確保が期待できます。労働と私生活の両方が充実すると、従業員のモチベーションも上がり、離職防止にもつながるのです。
-
3
メンタルヘルス不調者の減少
過度な時間外労働などは、体力的にも精神的にも労働者を消耗させます。それにより、メンタルヘルスに不調をきたすケースも少なくありません。
ワークライフバランスに積極的に取り組むことにより、充実した労働と私生活を送ることができ、メンタルヘルスの不調者を減少させることができます。
ワークライフバランスで
期待される効果~【従業員側】
-
1
仕事と家庭の両立
時間外労働が減ることで、家庭生活などのプライベート時間が増え、心に余裕が生まれます。ゆとりのある生活は、仕事にも家庭にも良い影響を及ぼすことでしょう。
-
2
スキルアップによる自己実現
ワークライフバランスによって生まれた時間の余裕により、自己啓発や資格取得に前向きになれます。獲得したスキルは、個人にとっても企業にとってもプラスになります。
-
3
心身の健康維持
時間外労働が減ることで、長時間に及ぶ労働から解放されます。心と身体を健康に保ち、コントロールする余裕が生まれます。
ご提供するサービス
※ 企業様のご要望と状態によって異なります。
下記サポートはあくまで一例となりますので、その他のご相談も承っております。
長時間労働の是正、時間外労働の上限規制に対応するためのサポート
- 残業時間の上限規制
- 時間外労働の上限は、月45時間かつ年360時間と定められていて、これを超える残業は違法とされてきました。しかし、臨時的で特別な事情がある場合、労使の合意があれば、各社が定める時間内で上限なく残業が行えていました。
今回の法改正では「時間外労働の上限規制」により、どのような場合であっても、年720時間を超える時間外労働は違法となり、そういった従業員がいる企業は、厳しい罰則を受けることとなります。 - 『勤務間インターバル制度』の導入促進
- 「勤務間インターバル制度」とは、前日の業務終了時刻から翌日の業務開始までの時間を一定以上確保することで、休息時間を守り長時間労働を防止するものです。
注目すべきは、これまでのように「働いている時間」を定めることではなく、逆に「働いていない時間」に焦点を当てることで、確実な休息を確保できる点にあります。 - 『年次有給休暇の年間5日間取得義務化』に対応するためのサポート
- 平成30年4月より、すべての企業において、有給休暇を年間5日間取得させることが義務付けられました。取っていない従業員がいたら、その1人当たり30万円以下の罰金が科せられます。10人いれば300万円、100人いれば3,000万円という厳しいものです。
当事務所では、計画年休制度や年1回から12回の基準日方式・半日年休を活用し、有給休暇取得の促進を行います。 - 月60時間超残業の割増賃金率引き上げ
- 法定割増賃金率つまり残業代は、月60時間以内の時間外労働に関しては25%以上、それ以上の時間外労働は50%以上と定められていました。
ただし、これは大企業の話で、中小企業では月60時間以上の時間外労働でも、割増賃金率は25%の猶予が認められていたのです。働き方改革関連法の成立により令和5年4月からはこの猶予が廃止され、すべての企業での月60時間以上の時間外労働について、法定割増賃金率が50%以上となります。 - 労働時間の客観的な把握
- 労働時間を把握していないということは、すなわち、従業員がいつ出社してどのくらい残業しているのかを把握しておらず、証拠も残っていないということになります。このことは後にトラブルを招きかねません。
従業員の労働時間は「客観的な方法」によって記録し3年間保存しなければなりません。これは管理職・裁量労働制を含むすべての従業員が対象となり、企業側はそのすべてを把握する必要があります。 - 『フレックスタイム制』の拡充
- 「フレックスタイム制」とは、1日8時間または週40時間という労働時間を「朝8時から午後5時まで」といった枠にとらわれず、労働者に始業時間と終業時間を委ねた働き方です。
この「清算期間」を通じて週40時間の労働時間をこなすことにより、個々が自由に勤務できる体制を作ります。この場合、各日の労働時間にかかわらず「週平均40時間」を超える労働時間が時間外労働となります。 - 『高度プロフェッショナル制度』の創設
- 「高度プロフェッショナル制度」とは、ただ単に「働いた時間」で賃金が発生するのではなく「成果」によって賃金を設定するという制度です。この制度が導入された背景には、日本の少子高齢化による労働者と生産性の減少があります。
この制度が適用されれば、企業は「時間外・休日・深夜労働に対しての賃金」の支払い義務が消失します。「成果」と「賃金」の関係性により、労働者はより生産性を上げる努力を惜しまぬようになり、企業側としてのメリットも大きいのが特徴です。 - 『産業医・産業保健機能』の強化
- 「産業医・産業保健機能」の強化は、長時間労働による健康リスクに焦点を当てた、労働者にとってもっとも重要な施策と言えます。産業医と企業側が労働者の健康について内容を報告・共有することで、従業員が安心して勤務できるようになります。
雇用形態に関らない公正な待遇の確保
- 不合理な待遇差を解消するための規定の整備
同一企業内で正規雇用労働者と非正規雇用労働者とで、基本給や賞与などの待遇に差があることは禁止されています。
企業には、基本給や賞与・福利厚生などの労働者への待遇を、具体的に規定する必要があります。そして、これまでの不明瞭な規定ではなく、法改定によって次のように変更されました。- 均等待遇規定:パートタイム労働者のみならず、有期雇用労働者にも適用
- 均衡待遇規定:職務内容などの事情を考慮した上で、不合理な待遇差を禁止する
性質・目的が適切だと、きちんと認められる事情も考慮して判断されることで、同一企業内での基本給や福利厚生などに、待遇差が生まれないことが明確化されます。短時間労働のパートタイム労働者だけでなく、派遣社員などの有期雇用労働者についても、統一的に整備されます。
- 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
-
これまでは、非正規雇用労働者は事業主に「正規雇用労働者との待遇内容の差やその理由」について説明を求めることができました。そして、説明を求められた事業主は、きちんと説明する義務がありました。
今回の法改定では、その説明義務が短時間労働者だけでなく、有期雇用労働者も追加され、内容も拡充されています。- 有期雇用労働者に対し、待遇内容及びその決定において、考慮事項に関する説明義務を創設
- パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、事業主に、正社員との待遇差の内容と理由の説明義務を創設
- 説明を求めた場合の不利益取扱いを禁止することを創設
- 行政による履行確保措置および裁判外紛争解決手続きの整備
- 同一労働同一賃金や均等待遇などにより、不合理な待遇差を解消するための義務やその説明義務について「行政による履行確保措置および裁判外紛争解決手続き」に整備がなされます。
つまり、待遇に関して不合理な差が生じている場合、正規雇用労働者だけでなくパートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者も、行政を通じて説明を求めることができるようになるのです。
働き方改革関連法の施行日
法律名 | 改正項目 | 施工日 | ||
---|---|---|---|---|
大企業 | 中小企業 ※ | |||
労働施策の基本法 | 労働施策総合推進法 (旧雇用対策法) |
法律名改称・目的規定・基本的理念・国の施策・基本方針の策定 | 平成30年7月6日(公布日) | |
長時間労働の削減・多様な労働時間制度 | 労働基準法 | 時間外労働の上限規制 | 平成31年4月1日 | 令和2年4月1日 |
適用除外業務等(自動車運転業務・建設事業・医師等)への上限規制猶予措置の廃止 | 令和6年4月1日 | |||
年次有給休暇の付与義務 | 平成31年4月1日 | |||
フレックスタイム制の清算期間の延長 | ||||
高度プロフェッショナル制度の導入 | ||||
月60時間超の割増賃金率の適用猶予措置の廃止 | - | 令和5年4月1日 | ||
労働時間等 設定改善法 |
勤務間インターバル制度導入の努力義務 | 平成31年4月1日 | ||
企業単位での労働時間等の設定改善への取組促進(労働時間等設定改善企業委員会の決議) | ||||
労働者の健康確保 | 労働安全衛生法 | 産業医・産業保健機能強化 | 平成31年4月1日 | |
医師による面接指導制度の拡充 | ||||
健康情報取扱い | 労働安全衛生法 | 労働者の健康情報の取扱いの適正化 | ||
じん肺法 | ||||
同一労働同一賃金の実現 | パート・有期労働法(現行パートタイム労働法・労働契約法) | 適用単位、均等・均衡待遇に関する規定、待遇に関する説明義務、紛争解決の援助等 | 令和2年4月1日 | 令和3年4月1日 |
労働者派遣法 | 均等・均衡待遇に関する規定、待遇に関する説明義務、紛争解決の援助等 | 令和2年4月1日 |
※対象となる中小企業
①資本金の額または出資の総額
小売業 | 5,000万円以下 |
---|---|
サービス業 | |
卸売業 | 1億円以下 |
その他事業 | 3億円以下 |
②常時使用する労働者数
小売業 | 50人以下 |
---|---|
サービス業 | 100人以下 |
卸売業 | |
その他事業 | 300人以下 |
働き方改革の罠
働き方改革を行うことで、企業側・従業員共に注意すべきポイントがあります。
- 労働時間が短くなるわけではない
- 労働量が少なくなるわけではない
確かに、働き方改革を行えば残業が減り、自分の時間に余裕を持つことができるようなイメージがあります。しかし、それはただ単に「労働量が減って働かなくてもよくなった」ということではありません。
企業には利益を追求する権利があり、従業員はその目的のために労働し賃金を得ています。働き方改革だからといって残業を止め、育児休暇などを積極的に利用し、自分が楽をするばかりでは企業の利益は生まれないのです。
働き方改革の真の姿は「企業側と従業員が創意工夫して生産性を向上させる」ことにあります。無駄を無くし、効率を上げることで、初めて「これまでよりも短い労働時間で必要な利益を上げる」ことができるのです。
従業員の勤務に対する負担が軽くなるであろう「テレワーク」や「フレックスタイム制」についても同じことが言えます。企業側がこれまでの勤務内容や形態を見直し、自由にそして効率の良い業務内容を推進していかなければ実現することは難しいでしょう。
育児休暇などにおいても「取りたいのは山々だが、取っている場合ではない」という人も多数存在するかと思います。残業に関しても「定時に上がっていては自分の業務が終わらない」という声をよく耳にします。
「働き方改革によって残業を減らすために強制消灯が行われたが、こなさなければならない業務が終わらず、結局翌朝早く出勤して業務を行う」ということになると、それは働き方改革が成功しているとは到底言えません。
重要なのは「従来の業務を見直し無駄を省くこと」「効率を上げて、これまでかかっていた労働時間を圧縮すること」です。この二つを強く意識してこそ、真の働き方改革の実現に繋がると言えるでしょう。