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健康診断を受けるよう命ずることの可否と異常所見の従業員に受診を強制すること

事業者は、労働者の健康管理の一環として、労働者に対し1年以内毎に1回の定期的な医師による健康診断や、一定の有害業務に従事する労働者に対し医師による特殊健康診断を行わなければならないとされています。これらの健康診断の実施を怠ると50万円以下の罰金が科されます。

他方で、労働者には事業者が行う上記健康診断を受ける義務が課されています。ただし、これに反したとしても、労働者には何ら罰則は科されません。また、労働者には医師選択の自由が認められており、事業主が実施する健康診断に代わり、他の医師による健康診断を受けることも認められています。

上記の通り、法律上、事業者には健康診断の実施義務が、労働者には健康診断を受ける義務があります。しかし、健康診断を受ける義務は、労働契約上の労働者の義務として、必ずしも事業者は労働者に対し健康診断を受けるよう命令することはできません。

もっとも、就業規則において合理的な労働条件が定められている場合、その労働条件は労働契約を規律することになります。この点、労働者の健康状態を把握することで健康状態に応じて労働時間の短縮、作業転換等の事後措置を行い、脳・心臓疾患の発症の防止、生活習慣病等の増悪防止を図ることを目的として健康診断を受けるよう義務付けることは合理的といえます。そのため、就業規則において事業主が実施する健康診断を受けなければならない旨を定めれば、健康診断を受ける義務は労働契約上の労働者の義務となり、事業者はこれに基づき労働者に対し健康診断を受けるよう命令することができると考えられます。

したがって、就業規則に健康診断を受ける義務が定められており、これに基づき事業者が健康診断を受けるよう命じたにもかかわらず、労働者がこれに従わない場合は、懲戒処分も可能であると考えられます。

なお、事業主に実施が義務付けられている健康診断の費用は、当然に事業主が負担すべきものです。他方で、労働者が事業主の実施する健康診断の代わりに他の医師による健康診断を受けた場合の費用は、事業主による負担は不要と考えられます。

事業者は、健康診断の結果、診断項目に「異常の所見があると診断された」労働者の健康を保持するために必要な措置について、健診後3カ月以内に医師から意見を聴取し、その意見を健康診断個人票に記載しなければなりません。

ところで、健康診断の結果、再検査や精密検査が必要とされる場合は多々あります。しかし、この再検査・精密検査自体は、定期健診で定めるような事業者に実施義務、労働者に受診義務のある健康診断でないことは明らかです。あくまで事業者は、異常の所見がある場合の措置を講ずるに際し、詳しい情報を収集するため、再検査や精密検査を労働者に勧奨するものです。したがって、その実施費用、受診に要した時間の賃金を事業者が負担することにはなりません。

就業規則上、再検査・精密検査の受診義務を明記するまではよい(その場合、受診費用・賃金は、事業者負担となる)ものの、その義務違反に対する懲戒権の発動は、慎重にしたほうがよいと考えます。(岡本)

 

 

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