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早期退職優遇制度における退職割増金に関する競業避止特約の効力

近年、企業では人員整理の一環として、従業員に早期退職を奨励し、退職する者に割増退職金を支給する制度が利用されています。このような早期退職優遇制度において支払われる割増退職金の支給条件として、退職後の競業避止を設ける例も見られます。早期退職優遇制度において割増退職金の支給を退職後の競業避止にうまく紐づけることができれば、退職後の再就職先を制限する方向に誘導することができます。

早期退職優遇制度における割増退職金に、本来の早期退職を推奨する機能に加えて、再就職先を制限する代償としての機能を持たせるためには、以下のような紛争化した事例も踏まえて、支給条件や水準を設定することが重要です。

従業員がセカンドライフ支援退職制度を利用して会社を退職する際、同業他社に転職した場合は返還する旨の合意をして退職加算金1008万円を支給したところ、当該従業員が退職後に同業他社に転職したとして、当該返還合意に基づき返還を求め、これが認められた例があります(野村證券元従業員事件)。裁判所は、退職加算金の返還合意の有効性について、「会社を退職する従業員において、従業員との間で将来同業他社に転職した場合に退職加算金を返還する旨の合意を望まないのであれば、本件制度を利用しなければよいのである」として、同制度の利用が従業員の任意の判断に委ねられていたことが重要視されたものです。

また、退職後2年間は競業他社に雇用されないことを遵守すること(競業避止特約)を条件に早期退職加算金が支払われることとなっていた早期退職優遇制度に応募した従業員が退職日に翌日から競合他社で働き始めたことが後で発覚したことが問題となった事案では、「競業避止特約が締結された後に競業他社に再就職が決まった段階での告知義務違反は不作為の詐欺が成立するとして早期退職加算金相当額である1587万2000円(元従業員の当時の年収額の2年分を超える額)の賠償を認めています。

以上からすると、早期退職優遇制度における割増退職金の支給条件に退職後の競業制限を含め割増退職金に代償としての機能を持たせる場合、割増退職金の水準については、特にもともとが高額の給与でないときは、前述のように競業を禁止する期間に見合う経済的不利益を補填したといえるだけの水準以上のものを想定しておくべきです。(岡本)

 

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