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退職時期が近いことを理由にして定期昇給を行わないことは問題か
定期的な昇格昇給の実施については、その制度設計や基準により使用者の認められる裁量の範囲が大きく異なります。
例えば育児介護休業法10条の「不利益な取り扱い」への該当性が争われた事案では、定期昇給の制度につき、「昇給停止事由がない限り在籍年数の経過に基づき一律に実施されるものであって、いわゆる年功賃金的な考え方を原則としたものと認定されています。
このような制度設計においては通常昇給停止事由の該当性について客観的に判断されることになり、昇給実施に関する使用者の裁量の範囲は狭い(あるいは、ない)ものとされることになります。
他方で、人事考課に基づき昇給を判断する制度設計になっている場合は、特に使用者の行う人事考課について裁量が広く認められる傾向にあります。もっとも人事考課の基準や手順を就業規則等で定めている場合にはその基準や手順等に則り考課が行われる必要があります。基準に定める考課期間外の事情を考慮したり基準を離れて不当な目的に基づく考課を行ったりすれば人事考課に関する裁量権の濫用とされることになり、当該考課を前提とする昇給の判断についても不適法と判断させることになります。
また、人事考課自体に使用者の裁量があるとしても、人事考課の結果に基づき昇給額や昇給率を機械的に割り振る制度設計になっている場合には、昇給を実施すること自体や昇給額に関する使用者の裁量は基本的に認められ難いと思われます。
制度設計や人事考課の基準等に照らして当該労働者が昇給すべきであるにも関わらず昇給させなかった場合、昇給を実施しないという使用者の判断(あるいは当該判断に関する言動)についてハラスメントに該当すると評価されるリスクを伴います。
そもそも、近く退職を予定している社員について、昇給の対象外とすることが可能な制度設計になっているのか、確認する必要があります。
一定の人事評価がなされても、一律に所定の昇給率を適用するような制度設計になっており昇給停止の理由として特に退職の時期に関する事項を定めていない場合には昇給を実施しないこと自体が不適法とされることになると思われます。
加えて、当該労働者が退職に至る経緯で、制度に照らすと昇給を実施すべきであるにもかかわらずこれを実施しない旨を伝える際の言動がパワハラとされるリスクもありますので、注意が必要です。(岡本)
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